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東京地方裁判所 昭和56年(ワ)384号 判決

原告

山田紀子

右訴訟代理人弁護士

永友巧

百瀬和男

渡邊隆

龍前弘夫

被告

株式会社朝日新聞社

右代表者代表取締役

渡辺誠毅

被告

内山幸男

右両名訴訟代理人弁護士

久保恭孝

主文

一  被告らは原告に対し、各自第三別紙記載の謝罪広告を朝日新聞全国版社会面に、一回掲載せよ。

二  被告らは原告に対し、各自金二〇〇万円及びこれに対する昭和五六年一月二五日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は二〇分し、その一を被告らの負担とし、その余を原告の負担とする。

五  この判決は、二項に限り仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは原告に対し、各自、第一別紙記載の謝罪広告を、朝日新聞、毎日新聞、読売新聞の各紙全国版社会面に、表題の「謝罪広告」の文字を太ゴシック体七〇級、被告株式会社朝日新聞社の社名、原告及び被告内山幸男の氏名を太ゴシック体二八級、その他の部分を縦六段どり、横三八行どりとして一回掲載せよ。

2  被告らは原告に対し、各自金一億円及びこれに対する昭和五六年一月二五日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告らの負担とする。

4  2項につき仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁(被告ら)

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  被告会社は日刊新聞紙の発行等を目的とする会社であるが、昭和五五年一二月一四日発行の朝日新聞全国版朝刊社会面に第二別紙のとおり記事(以下「本件記事」という。)を掲載して頒布し、不特定又は多数の朝日新聞の読者が本件記事の内容を知り得る状態においた。

2(一)  原告は豊島区目白三丁目五番一三号において、医院目白メディカル・クリニックを開設している医師であつて、色覚異常(「先天性色盲色弱」をいう。以下、同じ。)の治療を行つているものである。

(二)  原告の行つている色覚異常の治療方法は、良導絡自律神経調整療法(略称「良導絡療法」)を改良発展させたものであるが、良導絡療法とは、患者の皮膚の電気抵抗を介して、皮膚の交感神経の興奮性を測定し、この興奮性が交感神経反射等によつて特に高まつている部位(反応良導点)に適当な物理的刺激を加えることによつて自律神経の興奮性を調整する方法で、既に昭和二五年に中谷義雄博士によつて発見され、それによると色覚異常者が石原式色盲検査表(以下「石原表」という。)を完読できるようになるなど色覚異常の治療に効果があることが同博士によつて提唱され、右成果は、昭和三八年ローマで開催された国際学校保健学会において、良導絡自律神経学会々長野津謙博士によつて発表されているものであるし、また本件記事中に引用されている独協医科大学の関亮教授も「良導絡による色盲治療」(甲第三号証)に掲載された論文中において、良導絡療法による色覚異常の治療効果について報告し、色覚異常が「治ゆ」するという表現を用いることは反対であると断りながらも、良導絡療法が色覚異常の治療に「効果があることは確実と思われるのであるから、現在のところでは『色覚が向上する』という表現を用いるのが適当であろう」としているのである。

原告の治療方法は、既に述べたように良導絡療法を改良発展させたものであつて、この方法によれば、色覚異常者の色覚が向上し、色盲色弱が治るというに値いする効果があることは確実であり、現に着実にその成果を挙げているのである。

(三)  そして、原告は、右の治療技術の発見、治療方法及びその効果につき、自から執筆した「色盲色弱は治る」と題する著書(以下「本件著書」という。)を株式会社ベストセラーズから出版したが、原告は、右著書において「学問的には『色盲・色弱が治る』という言葉は使わない。『色覚が正常近くまで向上する』というややこしい表現をする。それは現代の医学では、まだ色盲の遺伝子まで変えることができないからだ。しかし、世間一般の常識的な言葉を使えば『色盲・色弱は治る』といつて、まつたくさしつかえないと思う。なぜなら、いままで見えなかつた赤や緑などの色彩が正常な人と同じように鮮明に目に映り、色盲検査表が完全に読めるようになるからだ。」と正確に断つているのであつて、学問的に見ても色盲は治るとは表現していないのである。

以上のとおりであつて、原告の治療方法は、決して「まやかし(三省堂版、広辞林によれば「ごまかす」「だます」の意とされている。)」ではないし、勿論、色覚異常の検査方法の欠点を利用している事実もないのである。

3  然るに本件記事は、「色盲″まやかし″療法」「検査の欠点を利用」の大見出しを掲げたほか、第二別紙記載のとおりの内容となつているのであつて、本件記事自体が偏見と誹謗に満ち、しかも極端に原告を愚弄し蔑視するものであること一見して明らかであるし、朝日新聞の一般読者が本件記事を素直に読むならば、原告が色覚異常者をだまして治療行為をしていると判断するであろうことも明らかであつて、本件記事を掲載した朝日新聞の頒布によつて、原告の名誉が著しく毀損され、かつ信用が失墜されるに至つたことは、いうまでもないところである。

4  本件記事は、その本文を被告会社の被用者で被告会社東京支店社会部に所属する記者の被告内山が取材執筆し、その見出しを被告会社の被用者である整理部員が付したものであるが、被告内山は、殊更に原告を誹謗し朝日新聞の紙面を賑わす目的で右本文を執筆提出し、被告会社の整理部員も被告内山と同じ意図のもとに殊更に誇大な見出しを付して本件記事を完成させ、これらの行為と被告会社による本件記事を掲載した朝日新聞の頒布行為が相まつて、原告に後記の損害を与えるに至つたものであるから、被告内山は民法七〇九条、被告会社は民法七〇九条、七一五条の各規定により、原告に生じた右損害を賠償する責任がある。

5(一)  本件記事を掲載した朝日新聞が頒布される以前においては、原告に対する色覚異常の治療申込者は一日平均二五名(月平均六二五名)であつたが、右頒布後においては、右の治療申込者は、多くて一日五名(月平均一二五名)程度に激減し、原告は、被治療者から平均一二万円の治療費を得ていたから、本件記事が報道されて後は毎月六〇〇〇万円を下ることのない減収となり現在に至つているのであつて、原告は、被告らの不法行為によつて、右減収額と同額の得べかりし利益喪失による損害を蒙つた。

(二)  原告は、被告らによる本件の不法行為によつて、医師としての生命を奪われたに等しい精神的な打撃を受けたのであつて、この精神的苦痛は、被告らから二〇〇〇万円の支払を受けることによつて慰謝されるべきものである。

6  よつて、原告は被告らに対し、右損害金のうち一億円及びこれに対する不法行為ののちである昭和五六年一月二五日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の連帯支払いを求めるとともに、原告の名誉回復のための措置として請求の趣旨1項記載のとおり謝罪広告の掲載を求める。

二  被告ら

(請求原因に対する認否)

1 請求原因1項の事実は認める。

2 請求原因2項のうち

(一)の事実は認める。

(二)の事実については、昭和三八年ローマで開催された国際学校保健学会において、良導絡自律神経学会々長野津謙博士が中谷義雄博士の提唱する色覚異常の治療方法を紹介したことがあること、独協医科大学の関亮教授が原告主張の論文中に原告主張のとおり述べていること、以上の事実は認めるが、その余の事実は知らない。

(三)の事実については、本件著書中に原告主張のとおりの記述があることは認めるが、その余の事実は知らない。

3 請求原因3項については、本件記事の見出し、内容を除くその余の事実は否認する。

4 請求原因4項の事実のうち、本件記事の本文は被告会社の被用者である被告内山が取材執筆し、見出しは被告会社の被用者である整理部員が付したことは認め、その余の事実は否認する。

5 請求原因5項の事実は知らない。

(抗弁)

1 まず、被告らが本件記事を執筆し、これを掲載した朝日新聞を頒布するに至つた経緯、目的について述べると、

(一) 昭和五五年九月、埼玉の富士見産婦人科病院事件が大きな話題となつていた頃、被告会社になん人かの色覚異常者から、「目白メディカル・クリニックで治療をうけているが少しも治らない。医者でない男が検査をするが、いつまでも検査表の字が読みとれないと怒り出す。ひどいところだ。」という趣旨の通報が寄せられ、これを知つた被告内山は、原告が本件著書を出版し、新聞等でこれを大々的に宣伝していたことも承知していたので、原告の色覚異常の治療に興味をもつに至つたのである。

(二) わが国では、色覚異常者は、男性で人口の四〜六%、女性で人口の〇・四〜一・三%を占めるといわれ、その殆どが、日常生活に特段の不便は感じていないが、強度の異常者に対しては、進学、就職などが制限され、また、色覚異状は遺伝的素因によるものであることから、色覚異常者やその家族の色覚異常の治療についての関心は極めて高いのが現状であるが、専門医の間では不治であるというのが定説である。

(三) 同年一一月、被告内山は、「東眼医ニュース」によつて、東京眼科医会が、学校医担当の会員に対し、「日本眼科医会でも、目白クリニックについて協議し、色覚の専門家にコメントを求めたところ、『治療による効果判定が、全く医学的でないから有効であるとは認められない。』『子供に色盲が治るという期待感を持たせ、そして数ケ月後に絶望させることが精神的な有害とすれば、この原告の色盲治療はまさに有害である。』との回答を得た。本件著書に書かれているものは非学問的で利潤のみを追求したもので、学校保健の場でとりあげるべきものではないので、本件著書を児童、生徒に紹介することのないようされたい。」旨警告したことを知り、また、原告所属の東京都豊島区の医師会も、原告が、色覚異常が良導絡療法によつて治ると宣伝していることは、医療法上の問題があるとして、同医師会の医道審議会に諮つていることも取材し、かつ日本眼科医会が原告に対して、治療、宣伝のあり方について自粛するよう申し入れる準備を進めていることを知るに至つたため、機会をみて、原告の行つている治療の実態と、この治療をめぐる眼科医界の対応、これについての専門医の見解を併せて、社会的に極めて関心の高い色覚異常の治療をめぐる動きを社会に報道すべきであると考えるに至つた。

(四) そして、その後も取材活動を続けた被告内山は、原告の治療と関連のあるとみられる良導絡自律神経学会の野津謙会長(当時)から、「色覚異常が治るという表現は行き過ぎで、色覚向上に改めるよう原告に申し入れている」との、崎村良導絡研究所々長からは、「本件著者は売らんかなの目的があり、われわれも困つている」との内容を取材し、また、良導絡自律神経学会が学問的よりどころにしている独協医科大学の関亮教授からも、本件記事に掲載してあるような意見を取材したのである。

(五) 更に、被告内山は、日本眼科医会の佐野常任理事ら同医会の関係者、横浜市立大学の大熊篤二名誉教授、名古屋大学の市川宏教授のほか、現実に目白クリニックで原告の治療をうけた者などに当り本件記事に掲載してあるような意見、事実を取材し、本件の著書をくわしく検討したほか、色覚異常に関するいくつかの文献についても調査したうえ、本件記事が報道される前日には、原告に対し電話で取材の申入れをしたが、原告は「治療以外のお申し越しの件については、これまで取材に一切お答えしていないので、他の者と相談してからでないと応じられない。」「患者が一杯で、夜おそくまで治療しているので、早急に返事しかねる。返事できるかどうかもわからない。」と答えたので、原告に対して「専門医は、色覚異常は治らないといつているのはご存知ですね」と尋ねたところ、原告は「そうですね」と答えたのみで、それ以上の反論、説明は一切しなかつた。

(六)(1) 色覚異常の原因は、網膜中の錐体にあるといわれている。人間の目に入つた光は、角膜、水晶体、硝子体を通つて網膜に達し、網膜にある錐体には、赤、緑、青の三種類の視物質があり、それぞれの光吸収特性に応じて光を吸収しその刺激が視神経に伝えられるのであるが、色覚異常者の錐体は、この視物質が欠けているか、異常な構造になつていると考えられているのであつて、この視物質中の赤物質が欠けたり、異常になつたりすれば第一色覚異常(赤の色覚の異常)に、緑物質が欠けたり異常になつたりすれば第二色覚異常(緑の色覚の異常)となるのである。視物質は、本人の遺伝子をもとにして錐体細胞内で作られ、遺伝子が全く欠けていれば、視物質が作られないし、遺伝子に異常があれば、異常な視物質が作られて、光吸収特性が正常よりずれることになり、色覚異常が生ずるのである。こうしたメカニズムから考えると、外部からの作用によつて、遺伝子は勿論のこと、視物質の構造を修正するというようなことは不可能であると考えられ、事実これまで、色覚異常についての確実な治療法はないのである。

(2) 色覚の治療をめぐる問題点は、その判定方法にもある。人間の主観による色覚は、身体条件のほか、周囲の明るさなどの物理的条件や訓練、経験などによつても大きく左右され、正常者でも暗やみでは色の区別がつけ難いことや、眼鏡を用い視力が向上すると色が鮮かに感じられる。

このため、色覚の検査法はかなり難しく、種々の方法によつて検査結果も少しづゝ異なるのである。最も一般に普及している石原表などの色覚検査表による検査法は、本質的に定性的な検査法であつて、治療効果を計る定量的な検査法ではない。しかも、検査表による場合には、練習効果が認められ「一定の自然光の下で三秒以内」という読み取り条件を守つても、繰り返し検査をすれば、読み取り結果に変化が生ずることは、専門家の間でよく知られていることである。

色覚異常者の殆んどが、他人に指摘されるまでは、色覚異常を自覚していないことを考えれば、本人の自覚も治療の決め手にはならないし、これまでにも良導絡をはじめいくつかの色覚異常の治療方法が試みられてきたが、いずれも治療効果がなく、色覚を改善することはできないというのが定説である。

(3) 原告は、治療効果判定に専ら石原表式を中心とした検査表を用いているが、長時間、検査表を凝視させるなど検査条件を無視したやり方を繰り返しており、その判定に疑問があるといわざるをえない。のみならず、原告はこのような色覚検査の限界に着目し、その結果をもつて色覚異常が治ると称して、人をまぎらわしていたものである。

(七) このような経緯を経て、同年一二月一三日、日本眼科医会は、その常任理事会において、原告に対し自粛の申し入れを行うことを決定し、このことを取材した被告内山は、重ねて原告から取材すべく努力したが、ついに連絡がとれなかつたのである。そこで、被告内山や被告会社の編集担当者は、原告の行つている色覚異常の治療の実態と、これを科学的根拠を欠き医の倫理にもとるものとして自粛を求める日本眼科医会の対応という社会的に関心の深い色覚異常についての治療をめぐる論争を専門家の意見を交じえて報道することは、新聞の使命であると考え、本件記事を執筆しこれを編集発行したのである

本件記事の見出しの「色盲″まやかし″療法」というのは、その本文にある原告の治療方法についての佐野常任理事等日本眼科医会側の説明記事の中から抜萃したものであるが、前述のとおり佐野常任理事らが原告の治療について、これをまやかし的なものと評価したことには充分の理由があるというべきである。

2 以上のとおりであつて、本件記事の内容は一般公衆の関心事である色覚異常の治療の能否に関するもので公共の利害にかかるものであるし、専ら公益を図る目的をもつて被告内山が執筆し、被告会社の整理部員が見出しを付し、被告会社が朝日新聞に掲載して報道したものであり、しかも、本件記事は、原告がしている色覚異常の治療の実態、これに対する日本眼科医会の対応、専門家の意見をいずれも正確に報道したのであるから、被告らの行為には違法性がなく不法行為は成立しない。

仮に、本件記事の内容に真実に反する部分があつたとしても、前記のとおり、前記の本件記事執筆並びに報道の経緯に照らせば、本件記事の内容が正確であると信ずるにつき相当な理由があつたというべきであるから、被告らには故意又は過失がなく不法行為は成立しない。

三  原告(抗弁に対する認否)

1  抗弁1項(一)の事実は知らない。

同(二)の事実は認める。

同(三)、(四)の事実は知らない。

同(五)の事実について、本件記事が報道される前日に被告内山が原告に電話で取材の申入れをしたこと、その際被告内山が原告に対し「専門医は、色覚異常は治らないといつているのはご存知ですね」と尋ね、これに対して原告が「そうですね」と答えた事実は認めるが、その際原告が被告主張のとおりの言葉で被告内山の取材申入れを拒否した事実は否認する。その余の事実は知らない。

同(六)については、一般に被告らが(1)で主張するようにいわれていることは認めるが、(2)、(3)の事実は否認する。

同(七)の事実は知らない。

2  抗弁2項の事実は否認する。

3(一)  被告らは、本件記事を専ら公益を図る目的で執筆し報道したと主張しているが、公益を図る目的があるならば、まず事実を公正な立場で調査し、公平に執筆すべきであり、新聞は学説よりも事実をこそ報道すべきものである。そして本件においては、原告の治療方法により、色覚異常が治る(色覚が向上する)事実を忠実に記事にすべきであつたにもかかわらず、これを怠り、殊更に原告と感情的に対立する立場の二、三の眼科医らの憶測による一方的な言い方を、いかにも事実であるかの如く歪曲してこれを記事にし、かつセンセイショナルな虚偽の見出しを付けて報道したものである。

以上の事実からすれば、本件報道は公益を図る目的に出でたものとは認め難く、専ら対立的な眼科医の立場を偏重して、その私利・私怨を果たすことに加担する意思に出たものというべきである。

(二)  被告らは、報道にかかる事柄が正確であると信ずるについて相当の理由があると主張するが、これも認めることができない。被告内山は、良導絡療法及び原告の治療方法によつて、少なくとも色覚が向上する事実を関亮教授、良導絡自律神経学会の野津謙及び崎村らから取材して充分知悉していたのである。しかるに、本件記事にはこれらの事実がなんら報道されておらず、全く正確公正とは認められない。本件においては、殊更に事実を歪め、治療の現場を調査することなく、しかも治療現場をみていないにもかかわらず、あたかも見ているかの如く執筆するなど、正確であると信ずるについて相当な理由があるとは到底いい難い。むしろ故意に不正確に執筆し、虚偽の見出しを付けたもので、その違法は極めて重大である。

(三)  被告らは、原告の治療の実態について正確に報道していると主張するが、原告及び治療の現場を、直接調査取材することなく、治療の実態を正確に報道していない。本件は、治療の実態やその現場を全く知らない者の推測のみによつて、それが治療の実態であるかの如く、虚偽の報道に終始しているものである。

被告らの主張は、すべて失当であり、荒唐無稽な空論にすぎない。

第三  証拠関係〈省略〉

理由

一請求原因1項及び2項(一)の各事実並びに同2項(三)の事実のうち、本件著書中に原告主張のとおりの記述があることは当事者間に争いがなく、この事実と〈証拠〉を総合すれば、原告は、昭和四一年に医師国家試験に合格した皮膚科専門の医師であつて、昭和四七年九月に目白メディカル・クリニックを開設し、昭和五三年頃から色覚異常の治療を行つているものであるが、原告が昭和五五年七月五日に株式会社ベストセラーズから出版した本件著書は、原告が採用している治療方法が、色覚異常者の色覚向上、改善に顕著な効果があることを解説、広報することを主たる内容、目的とするものであつて、本件記事が報道されるまでの間には既に一九版を重ね、その出版部数も合計八万部に達していたこと及び本件記事が報道された当時、目白メディカル・クリニックの原告のもとで色覚異常の治療を受けていた患者の総数は約四〇〇〇名で、日々同院に通院してくる色覚異常者の数は、新患二五名位を含め平均五〇〇名に達していたこと、以上の事実が認められ、他に右認定に反する証拠はない。また、本件記事が報道された当時、後記認定のとおり、東京眼科医会が昭和五五年一〇月一五日付「東眼医ニュース(第一〇号)」(乙第五号証)をもつて、学校医を担当している会員医師に対し、抗弁1項(三)において摘示したと同旨の警告を発していたこと及び名古屋大学医学部市川宏教授が同年一一月三〇日付朝日新聞日曜版(乙第一六号証)紙上において、本件記事中に摘示された同教授の談話とほぼ同旨の見解を表明していたことが認められるが、右以外に、公然と本件著書の内容及び原告が採用している色覚異常の治療方法を非難するものがあつたことを認めるに足りる証拠はない。

以上の事実によれば、本件記事が報道された当時、少なくとも色覚異常者ないしその家族その他の関係者においては、原告が色覚異常の治療を行う医師として著名な存在であり、本件著書と原告が当時採用していた治療方法によつて、原告が色覚異常につき有効な治療を行うことのできる医師としての相応の社会的評価を受けていたものと推認するに足りるのであつて、他に右認定を妨げる証拠はない。

二ところで、前記当事者間に争いがない本件記事について見ると、本件記事は、別紙第二のとおり「色盲″まやかし″療法」「検査の欠点を利用」「眼科医会自粛申し入れへ」の大見出しを掲げた縦九段抜き、横二三・五センチメートルの社会面トップ記事で、冒頭に付された縦四段抜き五行にわたる本文の前書(以下「リード」という。)において「原告は、現在の医学では治療法がないとされている色覚異常が『九八%治る』などと本まで出して大々的に宣伝、治療をしている。日本眼科医会の常任理事会は原告に対し、文書で治療の自粛を申入れることを決め、また同会は、原告が採用している治療方法は、学問的には全く根拠がなく、色覚検査法の欠点を巧みに利用したものにすぎないとしている」とするほか、これに次ぐ本文において、まず、原告の略歴及び原告が行つている治療は、良導絡療法であること並びに原告が本件著書中で「治療に四十回程度通えば、九八%の人の色覚が正常近くまで向上する」としていることを紹介したうえ、日本眼科医会関係者の指摘として、原告は、患者の色覚検査に当り、所定の検査条件に違反する方法で石原表を使用するなど「まやかし的な」ことをしているうえ、安くない料金を受取つている旨の発言があつたこと、色覚異常に関する専門の研究者は、いずれも原告が採用している治療方法による色覚異常の治療効果については否定的で、原告の治療を受けた色覚異常者もその効果を否定していること及び原告は、被告会社の記者(それが被告内山であることは、後記のとおりである。)の取材申込を拒絶したが、眼科医会によつて色覚異常が不治とされている事実を肯定したことを報ずる内容となつていることが明らかであり、また本件記事と前記甲第七号証とを対比すれば、本件記事の左側に併載されている縦九・五センチメートル、横六・四センチメートルの写真は本件著書の表紙を縮写したものであることも明らかである。なお、本件記事に使用されている「まやかし」の語が「まやかすこと」又は「まやかすもの」を意味し、「まやかす」の語が「紛らかし」「欺むく」又は「ごまかす」を意味することは公知の事実である。

そして、右に見たところからすれば、本件記事は、原告が本件著書によつて大々的に宣伝し、かつ現に行つている治療方法は、色覚異常の治療には効果がなく、原告もそのことを知つているにかかわらず、原告は、色覚検査法の欠点を利用して原告の治療方法が色覚異常の治療に極めて効果的であるかのごとく作為しているのであつて、右は、本件著書の読者並びに原告のもとで治療を受けている色覚異常者に対する欺瞞的行為である旨を極度に強調し、不特定又は多数の朝日新聞の読者にその旨印象づけようとするものであることを認めるに十分である。

三以上の事実によれば、本件記事が前記の朝日新聞に掲載されて報道されることによつて、前記認定にかかる原告に対する医師としての社会的評価が著しく失墜させられるに至つたであろうことは推認するに難くないところであるし、また本件記事中のリード及び本文は、被告会社の被用者である被告内山が取材、執筆し、その見出しを被告会社の被用者である整理部員(以下、被告内山と右の整理部員とを併せて「被告内山ら」ともいう。)が付したものであることは当事者間に争いがないところであつて、これと叙上の諸事実を総合考案すれば、被告主張の抗弁が肯認されない限り、本件記事の報道に関する被告らの行為は違法であり、しかも、被告内山らにはもとより被告会社にも本件記事の報道によつて原告に対する社会的評価が失墜させられることにつき故意があつたと認定するのが相当である。

よつて、以下、被告らが主張する抗弁の成否について判断する。

四1  まず、被告内山が本件記事のうち本文につき取材、執筆するに至つた経過について検討して見ると、抗弁1項のうち(二)の事実全部、同(五)のうち、本件記事が報道される前日被告内山が原告に対し、電話で取材の申入れをした際、被告内山の「専門医は、色覚異常は治らないといつているのはご存知ですね」との問に対し、原告が「そうですね」と答えたこと及び一般に色覚異常の原因及びその治療法の有無については、被告らが同(六)の(1)において主張するようにいわれていること、以上の事実は当事者間に争いがなく、この事実と〈証拠〉を総合すれば、

(一)  被告内山は、昭和五五年九月に被告会社の東京支店(通称東京本社)社会部に配属され、同月末頃から、当時社会問題化していた富士見産婦人科病院事件の取材チームに編入されたもので、その頃から医師一般の乱診療について関心を抱いていたものであるが、同年一一月末頃、日本眼科医会の佐野充常任理事らに対し、眼科医会が採用している会員医師の乱診療についてのチェック方法を電話で取材したところ、チェックの具体例として、原告が本件著書を出して患者を大々的に集めていること及び本件著書の内容に問題があるので、管下の東京眼科医会が学校医を担当している会員医師に対し、同年一〇月一五日付の「東眼医ニュース(第一〇号)」をもつて抗弁1項(三)において摘示したと同旨の警告を発したこと及び日本眼科医会としても原告に対して自粛を申入れることを検討中であることを知つた。

(二)  被告内山は、既にその以前に、偶々同僚の近田某記者から、同記者が目白メディカル・クリニックの患者と称するものから、右クリニックが富士見産婦人科病院と同じようなことをしている旨の通報を受けたことを聞知していたし、また本件著書が公刊されていることも知つていたので、早速本件著書を購読したところ、原告が本件著書において標榜する治療方法は、良導絡療法を改良し外部から患者に通電する方法で、この治療方法の良い意味での副作用として、頭がスッキリする、記憶力がよくなるなどされていること及び原告が色覚異常の検査法として石原表を中心とする仮性同色表のみを使用し、しかも治療の都度頻回にわたる色覚検査を行つていることがわかり、被告内山自身も、確実な治療法がないとされている色覚異常に関する従来の定説(本件記事が報道された当時における日本眼科医会及び眼科学会の定説も同様であつたことは、後記認定のとおりである。)にかんがみ、原告の標榜する治療方法に疑問を抱くに至つた。

(三)  そこで被告内山は、同年一二月初旬に本件著書にもその名が引用されている独協医科大学(当時)の関亮教授につき電話で取材し(取材した内容は、後記認定のとおりである。)、次いで、既に同年一一月三〇日付朝日新聞日曜版の「どうしました」と題するコラムで、本件記事の本文七段目から八段目にかけての「通電で効果はあり得ぬ」の見出しのもとに摘示されているところとほぼ同旨の意見を表明していた名古屋大学医学部の市川宏教授に架電して、重ねて右記事に摘示されたところとほぼ同旨の見解を聴取し、また、その頃本件著書に「良導絡医学研究所」として紹介されていた良導絡研究所の崎村徹男所長に架電し、同所長及び偶々右研究所にいた本件著書の表紙カバーに「日本良導絡医学会会長」として紹介されている日本良導絡自律神経学会会長の野津謙にそれぞれ質問し、前者からは「石原表が全部読めても色盲が治つたとはいえない。良導絡療法によつて色覚は向上するけれども色盲は治らない。」旨の、また後者からは「日本良導絡自律神経学会としては、色盲、色弱が治るという表現は困る。色覚向上に改めるよう既に原告に申入れてある。」旨の回答を得た。

(四)  被告内山は、同年一二月一三日夕刻に日本眼科医会の事務所を訪れて同会の常任理事である佐野充及び岸田博公らに面会し、その場で同人らから、本件記事のリード二行目の「日本眼科医会」から、その末行にかけて摘示されているところ及び本文の一段目一六行目から同二段目一一行目にかけて摘示されているところとほぼ同旨ないし類似する見解を聞いた(なお、その詳細は後記認定のとおりである。)ほか、横浜市立大学名誉教授大熊篤二が日本眼科医会に提出した意見書のコピー(乙第四号証)を受領したが、右意見書には、本件記事の本文中に同教授の意見として引用されているところと大筋において一致する意見が記載されていた。

(五)  そして被告内山は、同日原告に対して電話で取材の申入れをしたが、その際における取材は原告によつて拒否された。

以上の事実が認められる。被告内山本人は、本件記事の本文五段目の五行目の「山田院長の本を読んでから」以下同六段目五行目の「北海道の高校生もいた。」の記述部分に符合する供述をするが、右供述については、これを裏付けるに足る客観的な証拠は何ら存在しないのであつて、右供述をそのまま採用することはできないし、右の供述をのぞいては、右記述部分に副う事実があつたことを証明する資料はない。また被告内山本人の前記の取材申込みに際し、被告内山と原告との間で交わされた問答の詳細は、後に説示するとおりである。

2  そこで、右において認定判断を留保した被告内山がした関亮教授及び日本眼科医会常任理事からの取材内容について、更に検討して見ると、

(一)  〈証拠〉を総合すれば、関亮教授は、昭和二〇年九月に東京医学専門学校を卒業し、昭和二六年一二月に「色覚に関する研究」によつて医学博士の学位を取得し、その後東京医科大学の講師、助教授を経て昭和四八年四月に独協医科大学教授に就任した色覚に関する専門の研究者であるが、この間、昭和三九年五月以降「先天性色覚異常の良導絡治療」について研究し、昭和四一年度第七〇回日本眼科学会総会において、その成果を報告したこと、その報告内容は、良導絡療法(良導絡療法とは、原告が請求原因2項(二)で主張するところと同旨の治療法であつて、原告が本件著書で標榜し、かつ本件記事が報道された当時採用していた色覚異常の治療方法も、電気針にかえ電導子を使用するなど多少の改良が加えられたとされているにせよ、本質的には良導絡療法であつたことが認められる。)によつて治療を受けた色覚異常者一六例につき、石原表のほかアノマロスコープ、市川氏ランタン、大熊氏色盲色弱度表(以下「大熊表」ともいう。)、東京医大式色覚検査表、100hue test, Panel D-15 testによつて検査した結果、石原表及びアノマロスコープにおいて色覚が正常化したと判定できるものは一例も見出せなかつたが、右一六例中の一四例については、100hue testによつて色覚の向上が認められたもの一例、前記検査法のうちの二種類ないし四種類によつて色覚の向上が認められたもの一三例あつたとするものであつて、同教授は、右の成果から、良導絡療法によつて色覚異常が学問的意味において治ゆするとはいえないが、右意味での治ゆに非常に近い状態になるとし、また当時公表した「先天性色覚異常の良導絡治療成績」と題する論文(甲第三号証)中においても、良導絡療法によつて「アノマロスコープ、石原表が正常化したものは一例もないので、特に治ゆという表現を用いることには反対である。しかし、(良導絡療法が色覚異常の治療に)効果があることは確実と思われるのであるから、現在のところでは『色覚が向上する』という表現を用いるのが適当であろう。」としていること(同論文に右を同旨の記述があることは当事者間に争いがない。)、また、関亮教授は、昭和五五年六月二一日に原告が目白メディカル・クリニックで治療したとして同伴した患者を診察し、検査の結果、弱度の色弱と判定したが、治療前に検査をしていなかつたため、それが原告の治療の成果であるか否かを判定し得ない旨返答したことがあり、また同年九月六日に同教授のもとにきた患者の希望を容れて、その患者を原告に紹介したことがあるが、原告の治療した患者に同教授が接触したのは、前記のよう原告が同伴した患者一人であること、以上の事実が認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。

右事実を前提として、本件記事の本文二段目末行から同四段目末行にかけて摘示されている関亮教授に関係する記事の真否について検討して見ると、同記事は、その最初の部分において、関亮教授が「十数回の良導絡治療で、色覚が向上するような傾向をみせる人がいるが、決して色覚異常が治るわけではない」旨言明した事実を伝えようとするものであることが、右の記事自体によつて明らかであり、この記事を素直に読む限り、関亮教授自身が良導絡療法によつて色覚が向上することについて懐疑的ないし否定的見解を持つているとの印象を受けることを免れ難いところ、当時、関亮教授が「良導絡療法によつて色覚が向上する」ということにつき確信に近い見解を持つていたことは、前記認定の事実上明らかであつて、関亮教授が被告内山に対して、右記事のような発言をしたとは到底考えられないし、また前記関証人も右の記事に副う発言をしたことを否定しているのである。

次に右記事につづく「同教授のもとにきた目白メディカル・クリニックの患者は、治療前の検査室は普通のけい光灯なのに、治療後の部屋は色温度が低い、赤つぽい光の部屋になつていると証言したという。」とする記事部分は、関亮教授のもとへ訪れた原告の患者が同教授に対して右のような事実を告げたということを、同教授が被告内山に伝えたことを意味するものであることは、右の記事自体によつて明らかであるが、同教授が面接した原告の患者は、前記認定のとおり原告が同伴した患者一人であり、そのような患者が、殊更に原告を貶却するような発言をしたということ自体が既に経験則上も首肯できないのみならず、同教授は、その後において自己の患者一人を原告に紹介しているという前記認定の事実にかんがみれば、同教授は被告内山に対して、右の記事に副う発言をしたことがないとする前記関証人の証言は十分に信用することができるというほかない。

従つて、前記乙第一〇号証の記載及び被告内山本人の供述中、被告内山が関亮教授から本件記事の本文三段目二行目から同四段目四行目から五行目にかけての「証言したという。」までに摘示された談話(但し「色覚異常が治るわけではない」とある部分をのぞく。)を取材したとする部分は、叙上の認定経過に照らして到底措信することができないし、他の本件証拠を検討して見ても、関亮教授が右の記事に副つた発言をしたことを肯認することのできる資料はない。

(二)  被告内山が昭和五五年一二月一三日に日本眼科医会の常任理事につき取材した際同人らから本件記事のリード二行目の「日本眼科医会」からその末行まで及び本文の一段目一六行目から同二段目一一行目にかけて摘示されているところとほぼ同旨ないし類似する見解を聞いたことは前記認定のとおりであるが、〈証拠〉を総合すれば、原告は、当時、患者の色覚検査に当つては、主として石原表を使用していたのであるが、石原表の使用に当つては、石原表の読み方を練習していない被検者に対し、自然光のもとで定められた時間(数字表では三秒間)だけ検査表を呈示し、得られた答のみによつて被検者の色覚の正否を判定するという使用条件が付されているのであつて、右の条件に従つて検査をした場合であつても、検査を繰返していれば、被検者に特別の治療を加えなくとも、練習効果によつて、色覚正常者と同様に石原表が正読できるようになることもあり得るし、また検査時に被検者に赤色のコンタクトレンズを装着するなど検査時における光の条件を変えれば、右同様に石原表を正読することができるようになるが、右のようにして石原表が正読できるようになつたにしても、それは、単に石原表が正読できることを意味するにとどまり、色覚異常が改善され又は色覚が向上したことを意味するものではないこと、ところが、本件記事が報道された当時における原告の色覚検査法にあつては、患者に石原表を読ませ、正読できたかどうかは患者自身の手によつてカルテに記入させる方法を採用し、その記入に当つては、一つの検査表が三秒以内で正読できた場合、五秒以内で正読できた場合、三〇秒以内で正読できた場合及び三〇秒以上かかつて正読できた場合を、それぞれ定められた記号で表わすこととされていたこと、以上の事実が認められ、原告本人の供述中、右認定に反する部分は、前掲の各証拠に照らしてたやすく措信できず、他に右認定に反する証拠はない。

ところで、本件記事に付された大見出しとして掲げられた「色盲″まやかし″療法」及び「検査の欠点を利用」が、主として前記の日本眼科医会に関する本件記事中のリード及び本文中の記事から抽出されたものであることは既に見たところから明らかであるから、右認定の事実を前提として、右の記事にいう原告の色覚検査法乱用の事実の真否につき検討して見ると、前記認定事実によれば、原告が患者の色覚検査に当つて、石原表所定の時間に関する検査条件を守つていなかつたことは明らかであつて、本件記事のリード四行目から五行目にかけての「自覚検査法しかない色覚検査法の欠点を巧みに利用したものにすぎない」とされている部分は、右に見た石原表の時間的検査条件無視に関する限りにおいて真実に合致するように見えないでもないのであるが、本件記事の一段目二〇行目から同二段目八行目にかけての「この表(石原表)による検査は、一定の採光条件……が定められているのに、同クリニックでは、初診の際の検査室と、治療後の検査室が異なつており、治療後の方が(石原表を)読み取りやすいような光の条件にしているなど、まやかし的なことをしている、という。」されている記事に関しては、前記岸田証人の証言によれば、被告内山に対して右とほぼ同旨の発言をした日本眼科医会の常任理事のみならず他の常任理事は、誰一人として目白メディカル・クリニックにおける原告の色覚検査の現場を実見したものはなく、前記認定の採光条件に変更を加えれば色覚異常者も石原表を正読できるという医学的知見を前提にした推測を述べたにすぎないものであることが認められ、他に右認定を妨げる証拠はないし、また本件記事につき取材、執筆を担当した被告内山自身も右の色覚検査の現場を見ていないことは後記認定のとおりであつて、他の本件全証拠を検討して見ても、本件記事が報道された当時、右記事に摘示されたように、原告が石原表所定の採光条件に違背する方法で色覚検査を行つていた事実を肯認できる資料を見出すことはできない。

そうして見ると、既に指摘した「色盲″まやかし″療法」「検査の欠点を利用」と見出し並びにこれを基礎づける本件記事のリード及び本文の記述のうち、原告が石原表によつて色覚検査をするに当つて、所定の時間的条件を無視していた以外の事実については、真実性の証明がないことになるのも当然である。

3  そこで、原告が右のように石原表の時間的検査条件を無視して色覚検査をしていたことをもつて、直ちに、本件記事がいうように「色盲″まやかし″療法」「検査の欠点を利用」とすることができるかどうかについて検討して見ると、色覚異常は、その成因ないし発生機序上確実な治療法がないとされ、良導絡療法によつても色覚異常が学問的意味で治ゆすることがないとされていることは、既に見た事実関係上明らかである。

ところで、原告の標榜する色覚異常の治療方法が本質的には良導絡療法であること及び原告が本件著書において「色盲色弱は治る」としていることは前記のとおりであるが、前記甲第七号証によれば、原告は、本件著書の二二頁以下において「色盲は遺伝性なのに治るのか?」の質問を設定したうえ、「答―色盲色弱は98%治る。学問的には『色盲・色弱が治る』という言葉は使いません。『色覚が正常近くまで向上する』というややこしい表現をします。それは現代の医学では、まだ色盲の遺伝子まで変えることができないからです。しかし、世間一般の常識的な言葉を使えば『色盲・色弱は治る』といつて、まつたくさしつかえないと思います。なぜなら、本書で紹介する画期的な色盲治療により、いままで見えなかつた赤や緑などの色彩が正常な人と同じように鮮明に目に映り、色盲検査表が完全に読めるようになるからです。また『遺伝だから治らない』という言葉は間違つています。(本件著書に右の一部と同旨の記載があることは当事者間に争いがない。)」旨記述していることが認められるのであつて、この記述並びに原告本人尋問の結果によれば、原告自身も原告の治療方法によつて色覚異常を学問的意味で治ゆさせることができないことを認め、これを前提としたうえ、色覚が正常近くまで向上すれば、世俗的意味で色覚異常が治つたとしてよいとしているにすぎないことが明らかであり、本件記事がそのリード一行目において色覚異常が「九八%治る」及びその本文一段目一二行目以下において「治療に四十回程度通えば、九八%の人の色覚が正常近くまで向上する」と摘示している部分は、本件著書の右の部分の引用であることが明らかであるから、原告が、前記のように所定の時間的検査条件に違背した色覚検査を行つていたことが、本件記事がいうように、色覚検査の欠点を巧みに利用した「まやかし療法」であるといい得るためには、原告の治療方法によつても色覚異常者の色覚が正常近くまで向上することはあり得ないのに、原告は、殊更に所定の時間的検査条件に違背した色覚検査を行い、その結果、原告の治療方法によつて色覚異常者の色覚が正常近くまで向上するかのように誤信させていた事実を、被告らにおいて証明しなければならないのが当然の筋合である。

そこで、まず原告の治療方法によつて、右のように色覚異常者の色覚が正常近くまで向上することがあり得ないかどうかについて検討して見ると、

(一)  横浜市立大学の大熊篤二名誉教授及び名古屋大学の市川宏教授が、本件記事本文二段目一五行目以下及び同七段目末行目以下に摘示されたところとほぼ同旨の意見を表明していたことは前記認定のとおりであり、〈証拠〉によれば、本件記事が報道された当時、九州大学の庄司義治名誉教授は、その著「眼科診療の実際(上)」(昭和五一年一二月二〇日改訂版)において「近時良導絡電気治療の効を説くものがあるが、要するに先天性色覚異常の確実な療法はない」とし、東京医科大学の太田安雄教授は「TODAY'S THERAPY 1980」(昭和五五年三月一日発行)所収の「色覚異常」と題する論文中において「良導絡による方法:東洋医学の経路(ママ)に出発して、皮膚通電抵抗を測定し、その局部的減弱点(良導点)を加療点として行う方法であるが、色覚を改善することはできない。」としていたこと及び本訴提起後の昭和五九年五月二〇日に発行された日本眼科医会機関誌「日本の眼科」所収の名古屋市学校医会の高柳泰正ほかによる「地域医療における学校保健」と題する論文は「あるクリニックで治療を受けた大学生(DA)の症例を示す。治療申込をした時一定額を納入し、保険証をもつて受診する。色覚検査表は仮性同色表らしいものを毎回みる。両耳たぶに通電するが、患者自身に刺し込ませる。二五回が一クールである。この学生に石原国際版、SPP、TMC、ランタンテスト、パネルD―15、100hue test、波長弁別能、アノマロスコープの諸検査を治療開始前と治療した半年後に行つた結果、殆ど変化がないことが判る。」として、その検査データを掲載していること(前記甲第一〇号証と右の記述を対比すれば、このクリニックで行われている治療方法が、中谷義雄の開発にかかる良導絡療法と同一か又はこれに極めて類似しているものと認められるが、原告の治療方法は、前記認定のように、良導絡療法における電気針を電導子に変えていることから見ると、このクリニックを原告が開設している目白メディカル・クリニックと推断することはできない。)が認められ、他方、

(二)  良導絡研究所の崎村徹男所長、日本良導絡自律神経学会の野津謙会長のみならず、独協医科大学の関亮教授も、本件記事が報道された当時、良導絡療法によつて色覚異常者の色覚が向上する(〈証拠〉によれば、同教授は、右色覚向上の度合を「広い意味で治ゆといえる」程度としていることが明らかである。)としていたことは前記認定のとおりであり、〈証拠〉によれば、本訴提起後の昭和六〇年五月一二日付朝日新聞は「はりで色盲治療に成功」の見出しを掲げ、都城市の鍼灸医師新屋某が「文献から顔にあるツボを、鍼や電流を流して刺激すると、目の奥にある衰えている色覚の中枢をよみがえらせることができることを発見、(色覚異常の)治療に成功した。」旨及び同年四月一三日東京で開かれた日本鍼灸良導絡医学会で「明治鍼灸大学の森和教授が研究発表を行い、その中で電気の流れが目にどのような刺激を与えるかを明らかにし、新屋さんの治療法が正しいことを解明した。」旨報道している事実が認められる。

(三)  以上の事実と〈証拠〉を総合すれば、本件記事が報道された当時における日本眼科医会及び眼科医学会の定説は、良導絡療法によつて色覚異常者の色覚を向上させることは、理論的に不能としていたが、既に当時から、この定説を否定し、良導絡療法によつて色覚異常者の色覚を向上させることができるとする少数説が眼科医学会内にも存在したことは明らかであり、この少数説の正否は、事柄の性質上眼科医学会において検討され決定されなければならないものであるが、本件記事が報道された当時はもとより現在に至るまでの間において、前記関亮教授の業績を具体的に否定する研究成果が公表された事跡はないし(少なくとも、本件記録中には、この事跡を肯認できる資料は見当らない。)、昭和五八年八月京都市において開催された「第五回色覚研究セミナー」において、前記太田安雄教授らが「某クリニックで治療をうけた先天性色覚異常の一症例の検討(ここにいう「某クリニック」が原告の開設する目白メディカル・クリニックであることは、前記市川証人の証言と弁論の全趣旨に照らして明らかである。)」と題して、原告の治療を受けた患者(二三歳・男性)につき、その治療前と治療後に色覚検査を行つた結果、治療後においては「石原表、大熊表では改善をみるも、TMO表、Anomalscopeでは全く不変であつた。」旨の症例報告がなされた以外には、前記関亮教授の業績ないし原告が治療した患者に対する専門医ないし研究者による追試は行われていないことが認められるのであつて、他に以上の認定に反する証拠はないし、かえつて、後日に至つて被告会社自身が原告の治療方法の正当性を裏付けかねないような記事を報道していることは前記のとおりである。

以上の事実によれば、本件記事が報道された当時はもとより現在に至るも、前記の「良導絡療法によつて色覚異常者の色覚が向上する」とし、しかもその度合を「広い意味で治ゆといえる。」とする少数説は、学問的に完全に否定されているわけではないのであるし、この少数説が否定されない限り、原告が本件著書において、色覚異常者の「色覚が正常近くまで向上する」としたことをとらえて、これを誤りないし虚偽とすることはできないし、従つてまた原告が右のように標榜したことをもつて、直ちに「まやかし」ないし欺瞞的行為と断定することができないのも当然である。そして、原告が石原表所定の時間的検査条件に違背する方法で色覚検査を行つていたことは、前記のとおりであるが、それが検査方法であつて、治療方法ではないことはいうまでもないところであるし、原告が、前記のように患者に特別の治療を加えないでも練習効果によつて色覚異常者も色覚正常者と同様に石原表を正読できるようになることに着目して、患者を欺瞞するために殊更に右のような検査方法を採用していたことを肯認できる証拠もない。

4  以上を総括すると、既に指摘した本件記事の見出し「色盲″まやかし″療法」「検査の欠点を利用」並びにこれを基礎づける本件記事のリード及び本文摘示の事実は、その真実性につき、すべて証明がないとするほかないから、更に進んで、被告内山らが右の事実を真実と信ずるにつき相当な理由があつたかどうかについて判断する。

5  ところで、右事実は、被告内山が昭和五五年一二月一三日夕刻、日本眼科医会事務所において佐野及び岸田両常任理事らから聞知したところを、そのまま記事にまとめたものであつて、右両理事は、右の事実を被告内山に伝える以前に原告が行つている目白メディカル・クリニックにおける色覚検査の現場を実見していなかつたことは前記認定のとおりであり、被告内山が右取材内容の真否を原告につき直接確認することなく本件記事を執筆したことは、原告及び被告本人尋問の各結果によつて明らかである。

そこで、被告内山が右のように確認しなかつた理由について見ると、被告内山は、その本人尋問において「昭和五五年一二月一三日午前一〇時半頃原告に対して電話で取材の申込をしたところ、原告は『治療以外の件についてはこちらの仲間と相談して決めさせてください。ただし、これまで取材やインタビューには一切お答えしておりません。』と答えた。被告内山としては是非とも原告から直接話を聞きたいと思つたので、とにかく相談した結果をイエスでもノーでもいいから返事だけは欲しいとして、原告に被告会社の電話番号を伝えて頼んだところ、原告は『返事できるかどうか分らない。』と答えた。被告内山は、前記のように日本眼科医会における取材を終え、同日午後九時頃目白メディカル・クリニックに架電したが、全く応答がなく、更に電話帳等によつて原告の自宅の電話番号を調査したが不明であり、同日中原告からは何の連絡もなかつた。」旨供述するのに対して、原告は、その本人尋問において「同日午前中、朝日新聞社会部の内山と名乗るものから電話で取材申込があつた。当日は夕方まで診療の予約があつたので、本日電話をもらつて取材といわれても、まだ診療がある。本日今の今といわれても困る。一応相談してから電話をかけなおすので、電話番号を教えてもらいたいとして、原告の方から被告内山の電話番号を聞いた。被告内山の取材を断るとは全然いつていない。」旨供述しているのであつて、この両供述中の相反する部分のいずれが信用できるについて、更に検討して見ると、原告が同年七月に本件著書を公刊し、本件記事が報道されるまでに既に一九版を重ね発行部数八万部に達していたことは前記認定のとおりであり、〈証拠〉を総合すれば、原告は、本件著書が発行された直後の同年九月一日に主婦の友社が発行した雑誌「わたしの健康」に本件著書の内容と同旨の「新開発の良導絡治療」「不治と言われる色盲、色弱が驚くほど短期間で治る」と題する一文を寄稿し、また本件記事が報道された直後の同年一二月一七日には、本件著書の出版社の社員とともに被告会社を訪ね、本件記事を報道したことに抗議するとともに、目白メディカル・クリニックへの取材を申入れている事実が認められるのであつて、他に原告が被告会社の取材であるが故に被告内山の取材申込を拒否しなければならなかつたという特別の事情(因に、右電話取材申込の際「専門医は、色覚異常は治らないといつているのはご存知ですね。」との被告内山の問に対して、原告が「そうですね。」と答えたことは、前記のとおり当事者間に争いがないところであるが、本件著書中の記述が、色覚異常が学問的意味で治ゆしないことを前提とするものであることは前記認定のとおりで、この応答の存在をもつて、右の特別の事情にあたるとすることができないことはいうまでもない。)の認められない本件にあつて、原告本人の供述の方が被告内山本人の供述よりも信用できるとするほかないし、また被告内山が、原告につき直接取材せず、また目白メディカル・クリニックにおける色覚検査の現場を実見して日本眼科医会関係者の前記発言の真否を確認することをしないで本件記事を執筆しなければならないほどの緊急の必要性があつたことを示す証拠は、本件記録中には見当らない。

更に、本件記事本文二段目末行以下の関亮教授に関する摘示中に、同教授の発言を忠実に記載せず、また同教授の発言であることを被告らにおいて証明できない事実が含まれていることは前記認定のとおりであり、前記甲第七号証によれば、原告は、本件著書の二一三頁以下において、同教授が、前記の色覚異常に関する少数論者であり、第七〇回日本眼科医学会総会において、その研究成果を公表したことを紹介していることが認められ、本件著書の購読が被告内山の本件記事執筆の重要な契機になつていることも前記認定の事実上からも明らかなのであるから、被告内山としては、本件記事の執筆に当つては、右の関亮教授の業績についても検討を加えて然るべきであつたと考えられるにかかわらず、被告内山が、本件記事の執筆に当り、前記関亮教授の所説認定の用に供した甲第三号証、同第一〇ないし第一二号証の各文献に全く目を通していなかつたことは、被告内山本人が当法廷において自認するところである。

以上に述べたところを総括すると、本件記事は、被告内山が、前記の色覚異常に関する眼科医学会の定説及び日本眼科医会関係者の説くところのみを真実と速断し、前記少数説を顧慮することを怠つたばかりでなく、日本眼科医会関係者の発言が、前記のように原告の名誉を毀損する内容を含むものであることは発言自体から明らかであり、原告が被告内山の取材申込を全面的に拒否したとも認められず、また本件記事を原告に取材申込をした翌日に報道しなければならない緊急の必要性があつたとも認められないことは前記のとおりなのであるから、被告内山としては、原告につき直接取材し、目白メディカル・クリニックにおける色覚検査の現場を実見するなどして、日本眼科医会関係者の発言の真否を慎重に吟味しなければならない新聞人としての当然の注意義務があつたというべきところ、被告内山が、これを怠り、日本眼科医会関係者の発言の真否につき、何らの吟味も加えず、これをそのまま本件記事のリード及び本文とし、被告会社の整理部員が、右記事が全部真実に合致するものとして「色盲″まやかし″療法」「検査の欠点を利用」などの見出をつけたものと認定するほかない。

そうして見ると、被告内山らが、本件記事の全部が真実に合致すると信じたとしても、そのように信ずるにつき相当の理由があつたといえなくなることは当然であつて、他の本件全証拠を検討して見ても、右の相当の理由の存在を肯認できる資料がないから、被告らの抗弁は、他の点の判断をまつまでもなく理由がない。

五以上の事実関係によれば、被告内山は民法七〇九条、被告会社は同法七一五条の規定により、本件記事が報道されたことによつて原告に生じた損害を連帯して賠償すべき義務がある。と同時に本件記事が別紙第二のとおりの体裁で朝日新聞全国版の朝刊社会面のトップ記事として掲載され報道されたことは前記のとおりであり、これと朝日新聞が日本全国にわたつて何百万という固定読者を持つわが国屈指の日刊新聞である公知の事実その他本件に顕われた諸般の事実を考慮すれば、被告らに対しては、民法七二三条の規定を適用し、右の損害賠償と併わせて、連帯して、原告の名誉を回復する処分として別紙第三記載の謝罪広告を本件記事が掲載された朝日新聞に一回掲載すべき旨命ずるのが相当である。

六そこで、原告の損害について検討する。まず逸失利益の損害について見ると、本件記事が報道された当時目白メディカル・クリニックの原告のもとで色覚異常の治療を受けていた患者数は前記認定のとおりであり、これと本件記事の内容、体裁及び報道の態様を考え合わせれば、この患者数が激減するに至つたであろうことは推認するに難くないところであるし、また原告本人尋問の結果中にも、右による原告の逸失利益の損害に関する主張に符合する部分も存在するのであるが、客観的な資料によつて裏付けられていない原告本人の右供述のみによつて、この損害の額を算定することは到底できないし、他の本件全証拠を検討して見ても右の損害額を的確に算定し得る資料を見出すことはできない。以上のとおりであつて、原告の逸失利益の損害に関する主張は、そのまま採用することができないから、右の事実を慰謝料の算定に当り一事情として斟酌するにとどめることとする。

次に慰謝料について見ると、原告が本件記事が報道されたことによつて多大な精神的苦痛を受けたであろうことも十分推認できるところであり、これと本件に顕われた諸般の事情並びに本件においては、前記のように被告らに対して謝罪広告を命じ原告の名誉回復のための措置を講じていることを考慮すれば、原告の右の精神的苦痛は、被告らから二〇〇万円の支払を受けることによつて慰謝されると認めるのが相当である。

七よつて、原告の本訴請求は、被告に対し、損害賠償として二〇〇万円及びこれに対する本件不法行為後であることが明らかな昭和五六年一月二五日から支払ずみに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の連帯支払並びに名誉回復処分として、被告らが連帯して別紙第三記載の謝罪広告を朝日新聞全国版社会面に一回掲載すべきことを求める限度において理由があるから、これを正当として認容し、その余の請求を失当として棄却し、民訴法九二条、九三条、一九六条の各規定を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官米里秀也 裁判官松井英隆 裁判長裁判官原島克己は転任につき署名押印することができない。裁判官米里秀也)

第一別紙

謝 罪 広 告

朝日新聞昭和五五年一二月一四日朝刊二三面紙上において、「色盲まやかし療法」「検査の欠点を利用」との見出しの下に、目白メディカル・クリニック院長山田紀子医師が、検査の欠点を利用して、色盲のまやかし療法をしている旨の記事を掲載しました。しかし、右記事は全く事実に反しており、このため山田紀子医師の名誉及び信用を甚だ害することになりました。

ここに、山田紀子医師に対し深くお詫び申し上げます。

昭和 年 月 日

株式会社朝日新聞社

代表取締役 渡辺誠毅

担当記者 内山幸男

目白メディカル・クリニック院長

山 田 紀 子 殿

第二別紙〈省略〉

第三別紙

謝 罪 広 告

朝日新聞昭和五五年一二月一四日朝刊紙上に「色盲″まやかし″療法」「検査の欠点を利用」との見出しの下に、医師であり、目白メディカル・クリニック院長であるあなたが、色覚検査法の欠点を利用して、色盲のまやかし療法をしている旨の記事を掲載しました。しかし、右記事は事実に反しており、このため、あなたの医師としての名誉を甚だ害するに至りました。

ここに、深くお詫び申し上げます。

昭和 年 月 日

株式会社朝日新聞社

代表取締役 渡辺誠毅

担当記者 内山幸男

山 田 紀 子 殿

(掲載規格)

1 標題の「謝罪広告」は太ゴシック一五級、末尾の「株式会社朝日新聞社」「担当記者内山幸男」及び「山田紀子殿」は、いずれも太ゴシック一三級で印刷し、記事全体を二段どりとすること。

2 「昭和年月日」の空欄は、本謝罪広告を掲載した日を補充すること。

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